「小説家になろう」の三大人気要素と書籍化作品の傾向

少年ジャンプの人気作には大体「友情・努力・勝利」の三要素が入っていると言われています。勿論その要素がなくても人気作はありましたが、やはりあった方がジャンプらしくは感じられます。
そして現在の「小説家になろう」の人気のタグから見える三大要素は異世界・転生(転移)・チーレム*1になるんじゃないかな、と思います。
かなり特異的な要素だとは思いますが、商業ラノベでも流行り廃りはありますけど特異的な人気要素というのは普通にありますよね。
10年前だと、

  1. 学園異能
  2. 戦うヒロイン
  3. ブコメ

多分ここらへんを抑えろと編集さんに言われてた気がします。男主人公は頭脳戦が得意だったり機転が効いたりしますね。「普通の少年が特別な状況に巻き込まれつつ活躍する」という中高生の願望が現れていると言えましょう。
ちょっと前までだと、

  1. 部活(生徒会含む)モノ
  2. 残念系日常モノ
  3. ハーレムラブコメ

が流行ってましたね。これはファンタジーとか無理だと流石に理解したけど、夢は捨てきれない中高生向けに「等身大の世界で有り得そうなリアル感を味わいつつ妄想まみれ」なトレンドの変化というか。
結局それら要素を交えながら「真正面から王道で書く」「ちょっと捻った切り口で攻める」かして人気作になっているんじゃないかなー、と。
どちらにしろ読者層が求めているモノを分析し要素化してそれを利用して読者にアピールするのは何も間違っていませんよ。
例えば島耕作シリーズなんかその典型と言えましょう。

  1. 無派閥志向
  2. 理想の上司
  3. 良い女とSEX

という分厚い読者層である団塊サラリーマンの理想の要素を「真正面から王道で」描いたことで大ヒットしましたからね! 毎回ワンパターンだけど!
読者層が何を求めているか分析して理解するのは人気作を書くための第一歩なのです。


で、本題の「小説家になろう」は「異世界・転生(転移)・チーレム」の三要素になりますが、もうちょっと分解して説明すると、舞台は剣と魔法の異世界ファンタジーで起承転結の起の部分はは以下の3パターンの要素のどれかですね。

  1. トラックに撥ねられ転生
  2. 異世界に召喚されて転移
  3. VRMMOに取り込まれる

2と3の合わせ技で「VRMMOと似た異世界アバターの姿と能力で転移」というのも人気です。
承の部分は

  1. 転生時点で神様からチートを貰って俺TUEEEE
  2. 召喚された時の特典で俺TUEEEE
  3. VRMMOのスキルを使えて俺TUEEEE
  4. 現代知識でNAISEI

なんで神様が木っ端な人間のためにチートくれるの? とか思ったら負けです。基本的に「楽して優越感に浸りたい」がトレンドだと思えばOKです。水は低きに流れるが如く安易な妄想が人気の秘訣なのです。チーレムのチートの部分ですね。
転の部分ですが、ここで主人公に挫折なんかさせたら読者は逃げるか感想欄で「俺様が考えた通りじゃないからこうしろ」と暴れてしまい面倒なので一気に結の部分に持っていきます。

  1. 9割方エタる*2
  2. 美少女たちと次々とフラグを立たせる
  3. 異世界なので一夫多妻がOKなので酒池肉林END

チーレムのレムの部分ですね。「そんなアホな」と思う貴方はきっと正しいです。でも、結構こういう作品が多かったりします。「楽して優越感に浸りたいしモテたい」という中高生の正直すぎる妄想が正にトレンドなのです。しかし9割方エタると言ったように最後まで行くのは難しいです。異世界設定だと設定練り込むのが適当だった為に読者からの容赦無いツッコミで作者の心が折れたり、VRMMOならよっぽどのゲーマーじゃない限りネタが思いつかなかったりして途中で筆を折ります。


ただ、そんなトレンドの中でも人気を得て書籍化するという作品は起承の部分の要素を取り込みつつ、独自の要素を交えて転結までもって行こうとしているものが多いです。
代表的なのは「まおゆう魔王勇者」で有名な橙乃ままれさんの「ログ・ホライズン」です。

ログ・ホライズン1 異世界のはじまり
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ログ・ホライズン」の要素を分析すると、

  1. VRMMOと似た異世界アバターの姿と能力で転移
  2. 現代知識でNAISEI
  3. 美少女たちと次々とフラグを立たせる

当たりはちゃんと踏襲しています。そこから「ちょっと捻った切り口で攻める」ことによって、

  1. 濃いキャラクターたちの群像劇
  2. 練りこまれた世界観の設定による物語の奥深さ
  3. 社会的な問題を痛快に解決

橙乃ままれさんらしさを出して独特の面白さを出しているのです。まおゆう魔王勇者をコミカライズなりアニメなりで知った人なら多少は伝わるんじゃないでしょうか。
同じくエンターブレインから出ている「この世界がゲームだと俺だけが知っている」も、

  1. キャラのアバター異世界に転移
  2. ゲーム知識でこいつOKASIIII
  3. 美少女たちと次々とフラグを立たせる

という所は踏襲しているんですが、「流行のVRゲーム」の流行の理由が「バグ満載」であったり「ゲーム知識」「バグ技利用」だったりするだけでなく、

  1. 練りこまれすぎている膨大なゲーム知識を背景にしたバグ設定
  2. 張り巡らせすぎている伏線
  3. いつも騙される叙述トリック

と作者のウスバーさんらしさを出していることで独特の面白さを出しているのです。
そういった作者が行う一捻りはヒーロー文庫から出ている作品にも言えて、例えば「理想のヒモ生活」は

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  1. 異世界に召喚されて転移
  2. 現代知識でNAISEI

という「小説家になろう」の人気ジャンルの鍵となるところは踏襲しながらも、

  1. 主人公が毎月の残業時間が150hオーバーのブラック企業勤務
  2. 自分の好みド直球の美女から「ヒモになってくれ」と求婚

と、現代版島耕作もといある意味サラリーマンの理想を叶えるだけでなく、

  1. 妻(女王)の仕事を陰から支えてくれる夫
  2. ハーレム推奨なのに妻一筋で愛してくれる夫

と、キャリアウーマン的な理想もちゃんと叶えている所が凄いです。
正直言って講談社のモーニング系列でコミカライズをやっても私は驚きません。(笑
また、そういった捻った作品だけではなく「ナイツ&マジック」は王道でして、

  1. トラックに撥ねられ異世界転生
  2. 現代知識でNAISEI

を全うに行なっているのです。マジで。ただこれに、

  1. 主人公が重度のメカオタ
  2. 異世界には魔法で動く人型ロボットが存在

という要素を足したらすこぶる面白い作品になってしまった訳なのです。


結局何が言いたいかというと「傍から見て呆れるような人気要素でも、結局作者の料理次第で面白くなる」という当たり前のことだったりします。
だからヒーロー文庫ってちょっと…」と変に先入観を持たずに臆さずトライして欲しい訳ですよ! 「Web小説の書籍化はなぁ…」という人もいますけどそれ言ったら昨年一番売れたSAOだってWeb小説の書籍化ですからね!


以上、自称ラノベ読みの人たちがヒーロー文庫を過小評価している傾向があるので「理想のヒモ生活」と「ナイツ&マジック」をステマしてみた記事でした。Web版からかなり上手く改稿しているのでWeb版に不満があった人にもオススメですよ!

*1:チートでハーレムの造語

*2:エターナルから転じて永遠の未完のこと。