先週発売の少年ジャンプ2022年2号の「Dr.STONE」で千空が液晶ディスプレイを作ってました。
半導体が地獄とまで言ってたのになんで液晶ディスプレイを作れるのか?
と思う人がいるかもしれませんが、LCD設計して20年弱の専門家の端くれとして答えると可能です。
ツイッターで軽く考察してたら原作者の稲垣理一郎さんが反応してくれたので調子にのってもう少し考察したくなったのでこの記事を書いております。
千空が作った液晶ディスプレイは単純マトリクス方式*1のパネルです。
アラフォーの人なら誰もが一度は見たことがある初代ゲームボーイの液晶ディスプレイと同じ方式です。*2
現代のスマホやTV等に使われているTFT*3を用いたアクティブ・マトリクス方式と違って、
トランジスタ(半導体)が必要ないため、とてもローテクで作成可能なのが特徴です。
どのような構造をしているかというと、シャープがズバリそのものの図を載せてくれてるので引用してみます。
液晶ディスプレイの構造と作り方|液晶の世界:シャープより引用
構成している材料を一つずつ確認していきましょう。
偏光フィルターとは、サングラスにも使用されているものです。
目次コメントにあるように作中では説明が省かれていますが、話を単純化するためには必要な処置だと思います。
そもそも光とは波の性質を持っており、その波は360度あらゆる方向に振動しているんですが、それを一方向のみ取り出すフィルターです。
「一方向のみ取り出すなら光量が1/360になるんですか?」
と以前後輩に聞かれたことがありますが、そんなわけがありません。
どういう原理かというと波のベクトルで考えたら簡単です。
偏光子が並んだ角度の成分だけ抽出されるので、光量は半分になります。
偏光フィルターの原料は主にヨウ素化合物とPVA*4なので、石油と海藻があれば何とかなるでしょう。
ヨウ素化合物を溶かしたPVAを一方向にぐぐっと伸ばせばヨウ素化合物の方向が揃って、ナノサイズの縦縞模様になり、それが偏光子として仕事をしてくれます。
材料も簡単に手に入るし作り方も単純なため、千空とカセキならすぐに作れると思います。
ただ、これらの説明を入れるなら最低1ページは欲しいところなので、漫画として省くのは正解だと思います。
ガラス基板ですが、完全に平面のガラス基板が必要です。
これを工業的に作ろうとするならかなり大変ですが、実験室レベルならカセキがすぐ作れるのはカメラ作りの時にわかってますね。
透明電極とは可視光を透過する金属で、もっとも一般的なのがITOと呼ばれる金属です。
これはインジウムと錫の合金の酸化物です。
インジウムはレアメタルなので入手が難しいのですがアカシャならありそうですね。
ゼノなら簡単に合金を作ってくれそうです。
配向膜はポリイミドをコットンでこすって作るんですが、千空たちはガラス基板を直接削っているように見えます。
このガラスの溝が配向膜の役割をしているのか、それともガラスに塗っているITOをパターニングしているのかはちょっとわかりません。
単純マトリクス方式とか古すぎる技術なので私も詳しくは知らないのでわからないです。(専門家とは?
液晶は千空が合成してますが、n-ブチルアニリンとメトキシベンズアルデヒドが材料ということはMBBA(4-メトキシベンジリデン-4-ブチルアニリン)だと思います。
おそらく駆動可能な温度範囲を広げるために他の液晶材料との混合物になっているとは思いますが、千空ならそれらも合成して混ぜてるでしょうね。
ちなみになんで電圧をかけると液晶が動くかというとですが…
ディスプレイに使われる液晶は分極している細長い形状のものが使われています。
つまり、長軸方向と単軸方向では誘電率が変わっているのです。
透明電極に挟まれた液晶はキャパシタ(コンデンサ)における誘電体として振る舞うので、電場に従って誘電体として有利な誘電率となるように回転するのです。
キャパシタ(コンデンサ)の誘電体でしかないので交流でも問題ないというか、直流だと液晶が壊れてしまいます。
SHARPが電卓で液晶ディスプレイを実用化した時はこの事実に気付くのに膨大な試行錯誤を要したのですが、千空なら知らないはずがないのでサクっと交流回路を作っていることでしょう。
スペーサーはミクロンサイズですが、カセキなら… カセキならきっと何とかしてくれる…!
カラーフィルターはモノクロ表示の千空たちに不要なので作ってないですね。
バックライトですが、現代ではLEDを使用してますが、一昔前は冷陰極管でした。
ぶっちゃけ光れば豆電球でも問題ないですからこれは7巻の時点で作ってるのでとっくにクリアしています。
それとタッチパネルも作ってましたが、これは抵抗膜式という古くはATMとかでも使われている方式です。
タッチした場所までの抵抗値から距離を算出するシンプルな方式です。
そのため、二点同時タッチすると誤検出してしまうのですが今回は無視で良いでしょう。
厚さが均一のITOを用意する必要がありますが、カセキなら… カセキならきっと何とかしてくれる…!w
もちろん、抵抗値から位置を割り出す演算は必要になりますが、それはパラメトロンでも演算できる範囲でしょう。
つまり、半導体を使わない薄くて軽いタッチパネル付きフラットパネルディスプレイは液晶ディスプレイ一択なのです。
OLEDはTFTがほぼ必須だし、そもそも材料が実験室レベルだと寿命が短すぎですからね。
プラズマディスプレイもミクロン単位の製造技術がないと無理ですし。
という感じで最高に面白いDr.STONEですが、現在DMM電子書籍で50%ポイント還元セール中です。
もしまだ読んでないなら、今から是非とも読もう!